Betting against beta:レバレッジという特権

Betting atainst beta
Frazzini, A., Pedersen, L.H., Betting against beta. Journal of Financial Economics (2013)

 

概要

Buffett's Alpha でも登場した BAB ファクターの構築, 有効性についての論文.
レバレッジ制約を CAPM に加えることで, 低ベータ株に  \alpha が存在することが示唆される.

A basic premise of the capital asset pricing model (CAPM) is that all agents invest in the portfolio with the highest expected excess return per unit of risk (Sharpe ratio) and leverage or de-leverage this portfolio to suit their risk preferences. However, many investors, such as individuals, pension funds, and mutual funds, are constrained in the leverage that they can take, and they therefore overweight risky securities instead of using leverage. 

確かに, 各資産クラス(株, 債券, 不動産, etc)へのアロケーション変更でリスクを調整しているバランスファンドという存在はCAPM的には謎である(CAPM 的にはある optimal portfolio があり, 個人のリスク許容度の違いは optimal portfolio にレバレッジをかけることで調整する). このように, レバレッジ制約のある投資家はレバレッジではなく, 高リスク資産のアロケーション増でポートフォリオ全体のリスクを増やすため, レバレッジ制約のある投資家が多いほど, 高リスク資産は買われすぎて割高になっている=低リスク資産は割安になっている, という状況が発生する. 

 

CAPMとの違い - 証券市場線 SML

このモデルの証券市場線 SML はレバレッジ制約を表す変数  \psi \psi が大きいほどレバレッジ制約が厳しい)を用いて, 


 E_{BAB} \left( r \right) = r^{f} + \psi + \beta \left( E \left( r^{M} \right) - r^{f} - \psi \right)

と表される. 通常のCAPM


 E_{CAPM} \left( r \right) = r^{f} + \beta \left( E \left( r^{M} \right) - r^{f}  \right)

に比べると, 確かに  \beta \gt 1 の範囲でリターンが低下,  \beta \lt 1 の範囲でリターンが上昇していることが分かる. 


 E_{BAB}\left( r \right) - E_{CAPM}\left( r \right) = \psi \left( 1 - \beta \right)

さらに,  \beta = 0 の銘柄であっても, リスクフリーレートより大きなリターン  r^{f} + \psi が得られ, これがBAB ファクターの  \alpha の源泉となる. 

BAB ファクターの構築

 \beta = 0 の銘柄が必ずしも存在するとは限らないが,  \beta_{L} \lt 1 の低ベータ銘柄 L と,  \beta_{H} \gt 1 の高ベータ銘柄 H でロング・ショートポートフォリオを構成することで,  \beta = 0ポートフォリオが得られる.

  • L を  \frac{C}{\beta_{L}} だけロング
  • H を \frac{C}{\beta_{H}}だけショート
  •  C = \frac{\beta_{H} \beta_{L}}{\beta_{H} - \beta_{L}}

このポートフォリオはマーケット・ニュートラル( \beta = 0)なので, 期待リターンは,


{
\begin{align}
E_{BAB} \left( r \right) &= E \left( \frac{C}{\beta_{L}} r_{L} \right) - E \left( \frac{C}{\beta_{H}} r_{H} \right) = r^{f} + \psi \\\
E_{CAPM} \left( r \right) &= E \left( \frac{C}{\beta_{L}} r_{L} \right) - E \left( \frac{C}{\beta_{H}} r_{H} \right) = r^{f}
\end{align}
}

となる.
このロング・ショートポートフォリオに 1 単位のリスクフリー資産のショートを組み合わせることで, 期待リターンが正(  \psi \gt 0) のマーケット・ニュートラル( \beta = 0)かつセルフ・ファンディング( \frac{C}{\beta_{L}} - \frac{C}{\beta_{H}} - 1 = 0)なポートフォリオが得られることになる. 実際に, 様々な資産クラス, 地域のデータによる検証でもこの超過リターン(BAB ファクター)が存在していることが確かめられている.

まとめ

 \beta = 0 のリスク資産とリスクフリー資産の間には裁定機会  = \alpha があり(という理解をしている), この  \alphaレバレッジ制約のある投資家が CAPM 的な optimal 水準以上に高リスク資産を買ってしまうことで生じている. この  \alpha を取ることができるのは低コストの調達でレバレッジをかけて低リスク資産を買うことのできる投資家(e.g. バフェット)である.